キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
淳人さんの口から、畳みかけるように弾き出された言葉を。頭の中で咀嚼してく。
『手に余る』が砕けなくて、つっかえそうになったけど。飲み込んでそのまま置いておく。

もしかしたら。今あたしは、踏み込まない方が楽な領域の目の前に立ってるのかも知れない。
淳人さんはわざと立ちはだかって、踏み出しかけたあたしの足許を、守ろうとしてくれてるのかも知れない。

強引でお構いなしに見えても、命令を突きつけても。力尽くで服従させたりしないのを、ちゃんと知ってる。
この人の優しさは、その裏側に溢れてて。いつも。それに応えられないのが辛くて苦しい。・・・もどかしい、すごく。

あたしは奥歯をぐっと噛みしめた。

「・・・それでも。ミチルさんを信じるって・・・決めてるんです」

その瞬間。耳元をすり抜けてった風に、笑いかけられた気がした。
応援されてるみたいな。しょうがねぇなぁ、って呆れたみたいな。

「淳人さんの言う方が正しかったとしても、一緒には行けない。ごめんなさい・・・!」

自分に向けたように言い切ったあたしを、彼は厳しい眼差しで見据え。
そのままの表情で、小さく息を逃した。

「言っておくが、俺はそれほど聞き分けのいい男じゃないぞ」

「りっちゃんに手を出すつもりなら、それなりの覚悟をしておけよ。淳人」

ずっと黙ったままだったミチルさんが口を開いたのは、そこでだった。
静かなのに身震いしそうな気配を感じて、隣りをはっと見上げる。

「・・・いっそのこと、“櫻秀会”を“秋津”に喰わせても構わないんだからね、僕は」


冷え切った横顔には。欠片ほどの感情も浮かんでいなかった。
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