キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
志室隆弘、4月19日没。享年26歳。竿石の側面にはそう遺してある。
5月には27歳の誕生日を迎えるはずだった。

その日は金曜で、仕事帰りに飲みに行こうとしたのか、繁華街にいたお兄ちゃん。路上で酔っ払い同士がケンカしてたのを、止めに入って揉み合いになったらしい。
突き飛ばされたか振り払われたかで、車道に倒れ込んだところを停まり切れなかったワンボックスに撥ねられた。病院に運ばれたけど、連絡を受けてあたしとミチルさんが駆けつけた数時間後に、意識が戻らないまま息を引き取った。

泣き叫ぶあたしを、ひたすら抱き締めてじっと堪えてたミチルさん。
泣くだけでなんにも出来ないあたしの代わりに、葬儀会社の手配も、お墓も何から何まで一人で。
遺族じゃないと出来ない手続きも沢山あって、全部いちいち、ミチルさんが付き添ってくれた。

あの頃のことは憶えてるけど、現実味が薄いっていうか。膜がかかったみたいにぼんやりとしてるのに、傷みと悲しみだけが強烈に刻まれた。
あたしにはお兄ちゃんしかいないのに、これからどうやって一人で生きてけばいいの?って。
希望とか将来が全部消えて、何も無くなった気すらした。


ミチルさんがいなかったら。とっくにお兄ちゃんを追いかけてたね、あたし。お墓を見つめて、苦笑いをそっと零す。


そして彼も。あたしがいなかったら、そうしてた。きっと。




ミチルさんは、お兄ちゃんを愛してたから。
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