キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
駐車場まで戻る途中でお手洗いに寄らせてもらい、冷たい水で洗った手を拭きながら建物の外に出ると。ミチルさんの前に、黒いコートを着たスーツ姿の男性が立っているのが見えた。

知り合い・・・?

少し訝し気に、ゆっくり近寄ってく。すると、こっちに正面を向いてるその人の眼が、あたしを捉えた。

「・・・志室の妹のリツコ。だったか?」

落ち着いた響きのバリトン。
誰? あたしを妹って知ってる・・・、お兄ちゃんの友達・・・?

ミチルさんの横に並んだあたしに、半身向き直った彼は。黒の三つ揃いに、チャコールグレーのシャツ、ワイン色のネクタイ。髪はオールバック気味に流し、ミチルさんほどじゃないにしても割りと整った顔立ちだと思う。
隙の無い眸と、浅黒い肌が精悍さを際立たせてる、そんな印象。

「えっと・・・、はい。お兄ちゃんの知り合いの方ですか?」

「憶えちゃいないか。高校の頃、志室と菅谷とたまに一緒だったろう?」

言われて何となく思い出した。
ほとんどが3人でいたけど、ときどきゲームセンターとかファミレスに4人でいたこと。小六とか中一の話で、何しろあの頃はミチルさんしか目に入ってなかったし、まともに顔を覚える気もなかった。ゴメンナサイ。

「微かに記憶してます。その節は、お世話になりました」

ぺこりとお辞儀をする。
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