キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
「ついでがあったんでな、志室の墓に寄らせてもらいに来た。まさかお前達に会うとは思ってなかったが」

口角を上げ、ミチルさんに視線を戻して言ったのを、当のミチルさんは黙って受け流し、取ってつけたような愛想笑いを浮かべてあたしの肩を引き寄せた。

「淳人(あつと)、僕らはもう行く。・・・隆弘に余計なことを言わずに帰れよ?」

「・・・ああ」

「りっちゃん、行こう」

あたしに向けた笑みは、いつも通りで。
その場から引き離すようにミチルさんが肩を抱いたまま歩き出したから、慌てて会釈も中途半端になった。
次に会えたら、お礼言いたいな。頭の隅で思いながら。

「ミチルさん。今の人、お兄ちゃんのお墓に来てくれてるんだね」

心なしか歩が早い彼に合わせるように早歩きして、隣りを見上げる。

お兄ちゃんは誰とでも仲良くなれるタイプだったけど、こんな風に忘れずにいてくれるのはミチルさんくらいかと思ってた。
唯一、親族って呼べる祖父でさえ、お兄ちゃんと二人であの家を出てからは疎遠になってる。お墓まで知ってる人は、そうはいない。

「・・・淳人とは、卒業してからもたまに会ってたからね」

「そうなの? 知らなかった」

意外だった。お兄ちゃんだったら『昔の友達と会った』って、訊いてもないのに勝手に話し出すって思うのに。一度も聴いた記憶がない。
その気配を読んだのかどうか。歩くスピードが緩み、少し間を置いてミチルさんが言う。

「高一の時、三人で同じクラスになって以来の付き合いなんだけどね。見ての通り淳人は堅気じゃないんだよ。家が極道で、彼は跡継ぎに決まってる。・・・隆弘はまるで気にしてなかったけど、りっちゃんに変な心配させたくなくて、言わなかったんじゃないのかな」
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