キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
「それにしても・・・、お前が俺の会社に来るとはな」

しばらく経ってから口を開いた淳人さんを見やれば、仄かな笑みが口許に浮かんでる。

「採用は、倉田に任せてるからな。まさか『志室』の名前を聴くとは思わなかった」

「あたしもビックリです。“千倉社長”が、お兄ちゃんとミチルさんの友達だったなんて。淳人さんも知ってたなら、こないだ会った時に言ってくれれば良かったのに」

ちょっと口を尖らせて恨みがましく。
そしたら、みんなの前でマヌケな声を出さずに済んだのに~! 

「拗ねるなよ。菅谷に、余計なことは言うなと釘を刺されてたんだ、こっちも」

困ったように笑みが滲んで、大きな掌があたしの頭の上に乗った。
淳人さんの言葉に、あれ、と思ったのはその時。
・・・そっか。ミチルさん、知ってたんだね。グランドエステートが淳人さんの会社だってこと。

「ミチルさんも、そのぐらい教えてくれても大丈夫なのに」

心配性っていうか、子供扱いっていうか。そっと溜め息雑じり。
頭の上の手でやんわりと髪を撫でながら、淳人さんが言う。

「極道者と知り合いなんてのは、聴こえのいい話じゃないしな。その点は俺も同感だが、菅谷のお前への執着は寧ろ・・・」
 
そこまで言いかけた時、横に置いたバッグの中から不意に電子音が鳴り渡った。
着信だって気が付いて彼に断り、内ポケットからスマホを取り出す。画面の表示は、ミチルさん。タップして応答する。

「もしもし、ミチルさん?」
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