キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
「若、・・・着きました」

静かな制動がかかり、運転手さんが前を向いたままで低く伝え、車を降りた。
淳人さん側のドアを外から開けている間に、あたしも自分側の方から外に出る。
住所を教えてもないけど、確かにうちのアパート前の路上で。ミチルさんの車も停まってるのを。・・・耳の奥で、心臓がとくんと波立った音を聴いてた。

あたしの肩を抱いて一緒に玄関先に立った淳人さんを、戸惑い気味に見上げる。
ミチルさんと顔を合わせたら、諍う空気になりはしないかと心配もあった。
それを見透かすように、彼は黙って口角を上げた。

鍵を差し込んでドアを開けながら、「だだいま、ミチルさん」と明るい奥に向かって声を張る。
リビングからゆっくりと姿を見せたミチルさんは、一緒にいる淳人さんを一瞥してから、あたしに微笑む。

「おかえり、りっちゃん」

「ただいま。えっと・・・、急に予定変えちゃって、ごめんなさい」

「いいよ。どうせ淳人が、りっちゃんにお構いなしだったんだろうから」

伏目がちに謝ったあたしの頭を、ぽんぽんといつもの掌がやんわり撫でた。

「淳人も、時間までに帰してくれてありがとう」

「・・・いや」

二人の間を一瞬、温度のない空気が流れた気がした。
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