キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
「今回は見逃すよ、淳人。・・・次は無いと思ってくれていいから」

「リツにお構いなしなのは、どっちだ」

淡々としながら、お互いに引くつもりがない。ぴんと見えない何かが張り詰めてる。・・・そんな。
はっきりしてるのは、中心でその“糸”に絡まってるのは、あたし自身てことだけ。

ミチルさんがそこまで淳人さんを拒む理由が、単に彼が極道の人だからなのか。分からないけど、これ以上は二人の突き刺すような冷えた眼差しに居たたまれない。
きゅっとお腹に力を籠めると、わざと空気を読まないフリで明るく間を割った。

「・・・ミチルさんっ。淳人さんとお兄ちゃんの話ができて楽しかったし、今度は三人でゴハン食べようよ、うちで一緒に・・・!」

斜めに見上げたミチルさんが僅かに目を見張った。反対側からも、似た気配を感じてた。

束の間、小さく肩で息を吐いたミチルさんは。困ったように微笑んでやんわり受け流し、肯定も否定もしなかった。

「・・・・・・りっちゃんは明日も仕事なんだし、上がって着替えておいで。淳人は僕が見送っておくから」

それ以上は何も云えなくなったあたしは、あらたまって淳人さんを振り仰ぎ、お礼を言う。

「今日はごちそうさまでした。楽しかったです、とても」

「ああ、俺もだ。・・・懲りずにまた付き合え」

「はい」

「仕事は仕事として、きっちり働いてもらうがな」

「ガンバリます、“社長”」

クスリと悪戯気味に言えば、不敵に笑んだ淳人さんに頭を撫でられた。

「おやすみなさい、淳人さん」

「ああ・・・またな。リツ」


そのまま二階の自分の部屋に上がったから、二人がどんな話をしたのかは知らない。
着替えて洗濯物を片手に下りた時には、淳人さんの姿は無かった。

閉め切られた白木調の玄関ドアを見つめて、何とも言えない心なしか重たい溜息を。あたしはそっと、逃した。


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