キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
特に失敗もなく無事に仕事を終え、夜空の下、首にはぐるぐる巻きのマフラー、手袋と耳当ての完全防備で冷たい風を切り、我が家へ。

陽当たりは良いほうだけど、誰もいなかった部屋は薄っすら冷えてて。
明かりを灯しエアコンを入れると、無機質だった空気にも生気が戻ってきた。

動きやすい部屋着に着替え、夜ご飯の支度を始めようとキッチンに立つ。
ミチルさん、今日はいつも通りかな。
ラインで『帰ったよ』って送ると、すぐに既読にはならない。運転中かも。

冷蔵庫を開けて、解凍しておいた生姜焼き用の豚肉と玉ねぎ、小松菜、油揚げなんかを取り出す。あとは戻し不要のひじきを炊いて、・・・と。
味噌汁用の小鍋に水を入れ、火にかける。小松菜をザルに放り込んで水洗いしようと水栓のコックに手を伸ばしかけた時、カップボードの天板に置いたスマホが短く音を鳴らす。ラインの通知だ。開くとミチルさんからで。

“遅くなりそうだから、先に食べてていいよ”

一気に気持ちが萎む。
このところ仕事が忙しいらしく、週に二日くらいこんな返信が返る。
ただでさえ休みが合わないのに、ちゃんと顔見て一緒にゴハンを食べる時間まで減っちゃうのは寂しいなぁ・・・・・・。溜め息が漏れた。

“おつかれさま。待てるだけ、待ってるね”

パンダがお辞儀してるスタンプと一緒に送信すると、もう一度コックを掴み、勢いよく落ちる冷たい水で小松菜の葉を洗った。


< 56 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop