キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
最後は優しく唇を食んで離れた淳人さんは、空気を求めるように大きく喘いだあたしの目許と口元を指で拭い、アーモンド形の双眸で深く見下ろす。

「・・・どう、して・・・?」

気持ちが混乱して揺れ惑う。目を合わせていられないまま、キスの理由を力無く彼に問いかけた。

「菅谷からお前を奪い取る。・・・その意思表示だ」

目を見張って、淳人さんを見上げた。
ミチルさんから、・・・って。
思わず息を忘れた。
そんなの。

静かな声だった。彼の眼差しも表情も淀みなく本気だった。

「お前は菅谷といるべきじゃない。あいつはただ、リツを鳥籠に閉じ込めておきたいだけだ。愛情とは違う、自己欺瞞の執着でしかない。このまま菅谷といても、お前は志室の代わりに」

「分かってます・・・! そんなことは・・・っっ」

彼が何を云いたいのかを分かって言葉を遮り、声を振り絞った。

「お兄ちゃんが居なくなって、いちばん悲しくて苦しいのはミチルさんです。代わりでもいいんです、誰がどう思おうと、それでもあたしはシアワセだから・・・! 傍にいて、ミチルさんを少しでも掬えるなら一生ふたりで一緒にいる、離れるなんて出来ない。あたしはミチルさんを愛してるから・・・っっ」

奥底からせり上がった想いを止めることも出来ずに、あたしは一気に淳人さんに向かってそれを弾けさせた。


たとえどんなに歪(いびつ)だろうと。

ミチルさんにとってあたしが唯一だって言うなら。

鳥籠の中で外の世界を知らずに死んでくことくらい、なんでもない。



だって。もう他にすがるものが無いんだから。
お兄ちゃんていう太陽を、永遠に失くしたあたし達には。

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