キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
「おいで」

躰が自分のものじゃないみたいに、上手く動かせない。やんわりと手首を掴まえられソファに連れて来られた。
肩が触れ合うほど間近に座ったミチルさんは、あたしの腰に腕を回しぐっと自分に引き寄せる。もう片方で顎の下を捕らえられ、少し仰け反るように上を向かされた。

「僕は、淳人とは会うなと言ったはずだよ」

魅惑的で秀麗なその美貌には、感情の欠片もないように見えた。
切れ長の眸の奥で、蒼く冷たい焔が揺らめく。
唇から洩れる吐息と言葉は、さながら雪の女王が紡ぐかのように。

「どうして会ったの。・・・目を逸らさないで、僕を見て答えて」

口調はあくまでも穏やかだった。
ただ。矢を突き通すみたいな一切の容赦がない眼差しが。ミチルさんが本気だってことを、この上なく思い知らせる。

後悔? 懺悔? 
あたしを突き上げた痛みに大きく顔を歪めた。

「ごめ・・・なさ、・・・」

ようやく出せた声も掠れて。涙で目が潤む。

「ごめん、なさい。・・・も、ぜったいに、会わない、から・・・」

「会った理由を訊いているんだよ、僕は。りっちゃん、・・・淳人が会いに来たの?」

「・・・うん」

「どうして断らなかった?」

「・・・・・・このあいだのお礼、言いたかった、の」

「それだけ?」

「・・・それだけ・・・」

涙を流しながら、必死に目で訴える。
二度と。
二度と、ミチルさんを裏切ったりしないから赦して。
おねがい。

淳人さんに会いたいって気持ちは全部、捨てるから。
淡い想いごと、今ここであの人を断ち切るから。

一生、鳥籠に閉じ込めて、繋いでいいから・・・っっ。


嫌われたら。
要らないって云われたら。

一人ぼっち。



生きて、いけない。
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