キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
彼女についてそのまま駅の向こう口の階段を下り、駅前通りから少し行ったところを斜めに入って、二人で歩く。
一本裏は住宅街で、美容室やクリーニング店などが所々にお店を構えてる。
帰宅する人のシルエットもちらほらあって、後ろから追い抜いていく自転車や、時折り車も往来した。

その一画に、レトロな洋館風のお店がぽつんとあった。『珈琲・保科』。
カフェ・ほしなって読むんだろうか。アーチ型をした、一部分だけ小窓の形に抜かれた木製ドアにはシンプルなプレートが。しかもcloseって札がかかってる。

「どうぞ」

「えっ・・・?!」

自分の家のようにレバーに手を伸ばし、笑顔でドアを開けてくれた彼女に目を丸くした。

「入って?」

ドアベルが軽やかに響き、訳が分からないけど言われるまま。
背中で扉が閉まり、吉井さんが奥に向かって「愁一さん」と柔らかく呼びかけた。
すると。

「お帰り、睦月。寒かったでしょう。こんばんは、利津子さん・・・でしたよね。いつも睦月がお世話になっています。夫の保科愁一(ほしな しゅういち)と言います」

出迎えてくれた、白いシャツに蝶ネクタイ、黒のベスト、スラックス、ロングエプロンの、すらりとしたイケメンさんがふわりと微笑んだ。

吉井さんよりも歳上で、薫るような色気があって。綺麗にパーツが収まった、すごく整った顔立ちの人だった。うねりのある柔らかそうな髪をサイドから後ろに流し、少し浮世離れした雰囲気もある。

優しそうで素敵なその人は確かに、彼女の『夫』だと名乗った。
< 92 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop