キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
お店はこじんまりとして、広くはない。でも天井まで吹き抜けで外からの見た目より開放感があるし、白く塗られた壁と年代を感じる木の温もりを感じて、とても落ち着ける。

小窓がレトロガラスだったり、残してある梁からアンティークぽいペンダントライトが吊り下がってたり。案内された席のテーブルも椅子も、古そうだけどお洒落な猫足だったり。
飾り棚に洋書が並べられてるのとか、ドライフラワーが水差しに飾られてるのとか。違う日常に紛れ込んだ気分になれそうな。



「利津子さん。珈琲の前に良ければ、一緒に食事に付き合ってもらえませんか」

保科さんの微笑みは。空から舞い降りた羽根みたいに、ふんわり柔らかかった。
優しくて、引き込まれるようについ頷いてた。
ミチルさんのことが頭を過ぎって、やっぱり断ろうかと一瞬迷ったけど。

「可愛い女の子が会社に入ってきたって話したら、連れておいでって前から言われてたの。大介さんも時々来るし、気楽に食べていってね?」

彼女が彼との不思議な関係を少し明かしてくれたことも、気持ちが傾いた理由の一つだったと思う。

「ありがとうございます、吉井さん。あのじゃあ・・・お言葉に甘えます」

「そんなに畏まらないで大丈夫だから、睦月って呼んで。私も利津子ちゃんて呼んでいい?」

何だか『お姉さん』がいきなり出来たみたいで。
はにかみながら、小さく笑顔で返したあたしだった。
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