キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
「利律子さんのお相手は、睦月に任せるとしようか」

食事の準備があるからと、微笑みと共に保科さんがカウンターの奥に消えたあとで、ミチルさんにラインを入れる。睦月さんの家に食事に召ばれて遅くなることと、謝りも添えて。

既読マークがすぐに付いたから返信を待った矢先。来たのは着信だった。
睦月さんに断り、スマホをタップして応答する。

「ミチルさん?」

『うん。帰る前に電話して、りっちゃん。迎えに行くから』

「・・・ありがと。じゃあ電車に乗ったら電話するね」

『電車も時間が遅いと混むから、そっちに行くよ』

ここまで?
思わない申し出に、自分の顔が微かに強張ったのが分かる。

「そのくらい平気。大丈夫だよ、ミチルさん」
 
心配してくれてる。優しい気遣い。・・・だけど、どうしてか息苦しい。喘ぎたくなる。空気が薄くて。
声を取り繕って無理に笑う。気付かれないように。

「明日だって仕事でしょ? あたしは休みだし」

『そんな軟には出来てないって、前にも言ったと思うけどね』

やんわりと。でもこれ以上、聞く耳は持たない。・・・気配を悟って諦めた。

「・・・うん。じゃあ、あのね」

そこまで言いかけて。向かいに座った睦月さんが手をこっちに伸ばし、トントンと指でテーブルを叩いてあたしの注意を引く。
ジェスチャーで『電話を代わって』って合図をされ、会話を中断すると、おずおずと睦月さんにスマホを手渡した。

戸惑って不安そうな表情を浮かべてたはずのあたしに、にこりと笑んだ彼女は、丁寧な挨拶をしてミチルさんと話し始めた。
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