ビロードの背中
・・で、その人 劇団辞めちゃったの。

看板の俳優さんだったから、一時期お客さん入らなくなっちゃって大変だったの。

今はそこそこになってるけど、あの頃本当に極小劇団だったから。


でも、劇団長は私を辞めさせなかった。

 『ここで踏ん張って、いい女優になれ。』って。

劇団員は当然冷たかったけど、私、今まで以上に裏方の仕事も含めて頑張ったよ。



・・で、次に付き合った男がまたかっこ良くってさ。

私、舞台の仕事そっちのけで男にくっついてた。

もう劇団なんか、どーでもよくなっちゃって。


・・・で、フラれるんだけど、その時も

『劇団戻って来い。』

って・・・私を2回も救ってくれた。

きっと、次 私が何やっても、この人また救ってくれるだろうなって思ったの。

だから逆に、もう絶対迷惑をかけない、

劇団のルールから始まって、全てのルールを守ろうって決めたの。


・・・ま、そんなだから劇団の中では孤立しててね。

外で友達作ろうって思っても、女の友達って色々しゃべらなきゃならないでしょ。

私、そういうの面倒なんだ。

その点、男は簡単だから――。」


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