ビロードの背中
乗車すると、彼が

「――暑い。」

と、ニット帽を脱いだ。

髪が短くなっている。


「髪、切ったの?

・・・あれ?・・私、

『次に会う時は髪切って来て』

って言ったっけ。」


「もう――。

姉さん、俺の過去を責めるね。」



「いつ美容院に行ったの。さっぱりして似合うけど。」


「違うの。カットモデル。

・・あんまり切る気は無かったんだけど、美容師見習いの友達に切られた。

俺の友達、約束とか予定聞くとか、そういうのナシで来るから。」


「他にどんな友達がいるの?」



美容師見習い、料理修行中、インディーズバンド、劇団員などなど、

まさに明日を夢見る青年達ばかりだった。


「みんなでいつか、一人前になるとか、有名になるとか、夢語り合ってさ。
夜中に集まって朝まで酒飲んでさ。」

この仲間達の話をしている時の彼の顔は、生き生きとしていた。

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