ビロードの背中
お風呂の前で、

「絶対俺のほうが早く出るから、鍵持ってく。」

「待っててくれないの。」

「姉さんのその荷物見ただけで、湯冷めしそうだもの。」



そういえば、大浴場に一人で入るのは初めてだった。

・・・心細い。


いつも家族や友達が一緒だった。

時間が早いせいか、誰もいないのが救いだった。

大きな湯船に入りながら、彼は大丈夫かと考えた。


大丈夫に決まっているけど。



“―― 泳いじゃおうかな。”




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