ビロードの背中
「――姉さん。

手、つなごうよ。」


彼は私の左手を取った。

いわゆる恋人つなぎというもの。



男性と手をつなぐなんて、何年ぶりだろう。

私の手が、彼の大きな手で包まれる。

新しいマニキュア、新しいブレスレットに、

彼の長い指が優しく絡んでいる。


・・・嬉しい。


でも、私達は他の人から見たら、どんな関係の二人に見えるのか。

恋人、姉弟、夫婦、それとも不倫・・・。



ガラス越しに庭園を見ようと進むと、

私の親位の熟年夫婦(と思う)が、先に来ていた。


特に何も話さず、横に並んでいるだけなのだが、

この旅館の佇まいと、二人の姿がしっくりとはまっていて、

絵葉書を見ているようだった。

“仲の良い夫婦に、言葉は要らないのかも・・。”




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