ビロードの背中
「月が明るいわね・・・。」

「・・・うん。

瑠璃、群青、紺、松葉、緑青・・・。

自然の色のグラデーション。」


「あっ。仕事の顔。」


「・・・月明かりの色って、神秘的でしょ。

心を妖しくさせるでしょ。」


「・・たとえば、今はどんな風に?」


「・・・う~ん。

部屋に戻って・・・、ビールでも飲もうとか。」


私に彼が笑顔を向ける。


――若い。

庭園を楽しむ熟年に比べ、花より団子、庭よりビール。

それに素直に賛成できる私も、まだまだ若い。


土産売店に入ったのは閉店の3分前だった。

急いでアイスクリームを手にすると、彼がお金を払った。


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