ビロードの背中

「・・・さっきの話じゃないけど、絵の仕事は順調ですか。」

「定期的な仕事なら。子供向けの雑誌のとか。

でも、絵本の仕事がもう少し増えてほしいな。

・・・姉さんは?」


「あと2週間位で、大きい企画が始まる。

・・・また帰りが遅くなるわ。」


「そっか・・。」



会話が途切れてしまった。



私は触れないように頑張っていたけど、やはり不自然。

彼もテーブルを見つめたまま、落ち着かない様子。


もう一度、心に言い聞かせた。

女優のナツホが、このタイミングでメールを送ってきたのは、彼のせいではない。

その前の友達の電話が無ければ、彼もメールの相手を、私の為にごまかしたろうに。


バカ正直に携帯電話を見せて、メールを読まずに消去したことは、

彼の精一杯の誠意と受け取らなければ・・・。



――しかし旅行から帰ったら、彼は友達と会い、ナツホと会う。

この現実が生々しくて、頭から離れない。


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