胸騒ぎの恋人
新しい部署といっても、
 仕事的にはそれまでやっていたバイトと
 大差なかったので基本的な作業はそつなくこなす事が
 出来た。

 それまでと違って少し大変になったのは、
 前はバイト仲間で手分けしていた雑用が、
 ここでは私1人にかかって来たって事。

 コピー取り・お茶配り・電話の取次・
 配送物の代理受け取り ――、
 あたふたと時間に追われるようこなしているうち、
 あっという間に終業時間になった。


「―― じゃ、お疲れさま、実桜ちゃん。
 明日もよろしくね」
 
「はい。お疲れ様でした」


 今日はこれから隆さんと式場の下見に行く予定だ。
 
 彼は、伯父が”私の結婚相手に”と推し進める、
 いわば許嫁。

 コスモグループという”ゆりかごから墓場まで”を
 地で行く事業展開をしてるコングロマリットの
 御曹司。
 だから、この縁談には親族一同大ノリ気で。
 私達の結婚はほぼ99.9%決まったも同然。
  
 でも、伯父に引き会わされてから今まで、
 数えきれないほどデートはしたけど。
 
 お墓で手嶌さんを初めて見た時のようなトキメキは
 何時からかあまり感じられなくなった。 

 誰もが私達の”政略結婚”を前提の交際という内情を
 知っていながら。
 やれ”玉の輿”だ ”お似合いのカップル”だ、と
 もてはやす。
 
 
 実は父にも私と同じような状況で政略結婚の相手が
 いたけど、父は散々迷い考えた結果。
 当時真剣に交際していた彼女(母)と駆け落ちし、
 ひっそり友人達とだけ結婚式をしたという。
 
 今のところ私には散々迷うほど深いお付き合いの
 異性はいないから、多分このまま隆さんと結婚
 する事になるんだろうが……一生に一度きりの
 人生なら、もっと燃えるような恋もしてみたいって
 思う時もある。
 
 だって ―― 一応女の子だもんね。
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