〈BL〉あなたの隣、君の隣
第一話♤知らされた事実
今日は恋人の燿に用事を
キャンセルされ時間が空いたため
少し遠出して食材を買いに来たけど
それが間違いだった。

あらかた買い終わり、帰ろうと
思って駅の方へ歩いていると
見覚えのある横顔が……

ぇ……

君と一緒にいるのは誰?

背格好は僕と似ていた。

何を話しているのかは
此処からじゃ聞こえない。

何で?

僕との予定をキャンセルしてまでの
用事はそいつに会うためだったの?

荷物が重いなんて気にならないくらい
ショックな出来事だった……

✽+†+✽――✽+†+✽――✽+†+✽

どうにか家に帰って来た僕は
食材をしまい終え、料理する気にはならなかったから
入浴だけ済ませると
ラグも敷いていない冷たい床に寝転んだ。

この冷たさが今の僕の心の中の冷たさに感じた。

何か理由があったのかも知れない。

だけど、僕にはそれを
確かめようとする勇気はなかった……

幸いだったのは、明日が日曜日だってこと。

明後日からどうすればいいのか
全く思い付かない。

結局、職場では全く話さなくなり、
擦れ違ったまま、
季節は秋から春になろうとしていた。

仕事にはどうにか行ってるけど
燿と話せないのは堪える。

声が聞きたい。抱き締めて欲しい。名前を呼んで欲しい。
そして、キスして抱いて欲しい。

僕の方が年上だけど、抱かれる側だ。 

どんなに、抱かれている時を
思い出しながら、一人で自慰しても
心の寂しさは埋まるどころか増すばかりだ。

そうして、三月も後十日で終わろうと
していたある日、突然、父さんから電話が来た。

「〈恢、久しぶりだな〉」

家を出てからはあまり、連絡していなかった。

『〈父さん!?〉』

何かあったのかな?

そう思っていたら父さんの口から恋人のフルネームが。

「〈庵原耀って知ってるよな?〉」

何で父さんの口から燿の名前が出てくるんだ!?

待ったく意味がわからない……

『〈庵原耀は僕の大切な恋人だよ〉』

会いたい……

「〈やはり、そうか……

燿君は脅されているんだよ、依蕗と甥っ子の薪示に〉」

待って、待って、“依蕗”と“薪示”って
母さんと従兄だよな。

その二人が何で燿を脅すんだ?

「〈あいつらは今、金に困っているみたいでな
最初、俺の所に来たんだが断ったら
何処で知ったのか燿君が恢の恋人だと知り
今度はターゲットを燿君に変えたんだ……〉」

僕の心の中を読んだような
言葉を紡いだ父さん。

そうか、この事を
知らせるために電話をくれたんだ。

『〈教えてくれてありがとう〉』

脅しの内容は憶測と自惚れじゃなければ
僕に関する何かなんだろう。

耀は何時だって
僕を優先で考えてくれている。

ということは、あの日
燿といたのは従兄ってことだよな。

『〈一つ確認したいんだけど、
彼、僕に背格好が似てる?〉』 

此処二十年近く会ってなかったから
あの時は気が付かなかった。

「〈確かに
後から見たらわからないかも知れないな〉」

これで疑惑が確信に変わった。

『〈ありがとう、父さん〉』

僕の恋人を脅すなんて
例え、血の繋がった
母親と従兄だとしとも赦さない。

✽+†+✽――✽+†+✽――✽+†+✽

あれから数日経ち、
また、父さんから電話が来た。

「〈耀君とは話せないままか?〉」

理由があるんだろうけど
半年以上話せていないし、触れていないから
燿不足で心身共に可笑しくなりそうだ……

『〈うん……明らかに僕を避けてる〉』

同じ職場なんだから全く会わないってことはないけど
何時もだったら真っ先に僕に話しかけてくれていたのに
今は目も合わせないようにして
そそくさと職員室を出て行ってしまう。

「〈そうか……

なら、これはお前が一番知りたかったことだろう〉」

燿が僕を、避けている理由(わけ)。

『〈何か分かったの?〉』

「〈あぁ、俺の恋人が頑張ってくれてな(笑)〉」

ぇ? 父さんに恋人!?

「〈お前の考えてることはわかるが
その話しはもう少し後でしてやるから
今は燿君のことだろう?〉」

流石父親と言うべきなのか電話越しでも
息子の考えていることがわかるらしい(笑)

『〈それで……〉』

「〈あっちこっち聞き込みをした結果、
どうやら、あいつらは
燿君がお前と話したり連絡を取ったりしたら
“お前を慰み者”にすると言ってたらしい〉」

成程ね、やっぱり僕のことだったか。

『〈理由がわかってよかったよ。

恋人さんにお礼言っといてくれる?〉』

どっちが言い出したかは知らないけど
あんな奴らと血の繋がりがあるとか
反吐(へど)が出そうだ。

「〈わかった、伝えとくよ。

この件が片付いたら四人で
食事をしようじゃないか〉」

いいこと言うなぁ♬*.+゜

『〈そうだね♡*.+〉』

さっさと終わらせて
耀に“甘えたい”。

燿を脅すために言ったんだとしても
普通、息子と従弟をそんな風に
してやろうなんて考えないと思うけどね。

百歩譲って、僕を“ぼこぼこ”にするとかなら
まぁ、わからなくもないけど
それにしても、“慰み者”ねぇ……

頭のネジが外れてる奴らは
考えることも可笑しいのか。

全くもって理解不能だ。
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