やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~

ウソ……先輩寝てる。
「どこまで行くの?」さっきら運転士さんのイラつきが増している。
案の定、言わないなら降りてよっていう、冷たい態度で言われる。

「えっと……」
仕方がない。
「すみません、では、この住所まで」先輩を家まで連れて行くことにした。
車の中から作田君に何度もかけたけど。やっぱり返事はなかった。

「この辺りにどこか、泊まれるところって、ないですよね?」
「お客さん、もしあったとしても、そんなに酔ってたら無理だろうね」
確かに泊めてくれるような店はなかった。
岡先輩、完全に寝てるし。
私の家に連れてくのは、いいんだけど。

町田課長なんて言うだろう。怒るだろうな。
許してくれないかも知れない。
それを考えると、恐ろしい。

岡先輩を泊めたなんて。誰かに話さなければ、彼が知ることはないだろう。
いくら課長でも。黙ってることまで知ることはないよね?
はあ……
変なことになっちゃった。
私は、岡先輩の携帯のロックをはずそうと数字を入れてみる。
住所分からないかな。何度数字を打ち込んでも、ロックは外れなかった。
だめ。こういうのはどうしようもない。

町田課長の顔が浮かんでくる。
こんなことしてると知ったら、彼、何て言うだろう。
課長、今、何処にいるんだろう。
罪の意識に耐えかねて、やんわりと事情だけ伝えるメールを送った。

ーー今、岡先輩と一緒にいます。えっと……先輩、すこく酔ってるから、家まで送って行くところだから。心配しないで。

送って行くのは、私の家だってことは伏せておいた。
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