やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~
何かスポーツでもやっていたのかな。
仕事は完全なデスクワークだから、あの体を維持するには何かしてるんだろうな。
この人って、本当に何でもできる。
その時もまだ、私は、課長が一時的な付き合いを望んでいると思っていた。この人は、何でも真面目に考える人だ。
社内で恋愛なんて、絶対しないだろう。
会社の直属の部下と、長い付き合いをするようなタイプではない。
そう思っているに違いない。
だから、部屋を出る前に
『昨日のことは、ここだけの秘密だ』なんて言い出すかも知れない。
ちょっと寂しい気もするけど。
彼が作ったスクランブルエッグはとっても美味しかった。
食べ終えた時、彼が突然言い出した。
「都?これから、名前で呼ぶか」
ええっ?
今、何て言ったの?
ダメ。
それは絶対にダメ。
「嫌よ。そんなの。急に呼び方を変えたら、周りに、私達が特別だって宣言するようなものでしょう?」私は、慌てて答える。
「別にいいじゃないか。本当のことだし。正直に言って何が悪いんだ?」
彼は、急に頑固な課長に戻る。
「本気なの?」目の前が暗くなる。
「都……俺は昨日のことは、軽く考えてない。責任はきっちり取るつもりだ」
「責任って、何の責任ですか?」
「責任とは、つまり俺は……
今後、何十年という俺の人生で、君に対する責任を負う」
さらっと言ったけど、何気にすごい内容じゃなかった?
「ちょっと、待って下さい。今後って、いったいどいういう意味です?
たった一晩、一緒にいただけですよ。それだけで、これからずっと責任を取るって?」
「起こってしまったことは、仕方がない。だがこれからは、けじめをつけなければならない」
「けじめ?けじめって、何するんですか?」
「取りあえず、ご両親に挨拶に行く。結婚を前提にお付き合いしてると、報告に行かなければならない」
冗談でしょう?