やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~
よし。はっきり言ったわ。
ここまではっきり言い切ると、さすがに課長だってわかるでしょう。通じたのか、彼は渋い表情で腕組みしていた。
良かった。課長考えて直してくれるかな。

ホッとした。
とにかく、私には好きな人がいる。
私には、他に気になる人がいる。
そんな状態で、体の関係を持ったからと言って、流されてはいけない。
私は、自分の気持ちを伝えるように、課長の顔を正面から見た。キリッとした眉。
意志の強そうな眼差し。
私を睨みつけるようにして見ている。


「お前、逃げる気か?」

「はあ?」
思ってもみなかった言葉に慌ててしまった。

「善良な独身男を手玉に取って、
さんざん楽しんだで、そのあと、用がなくなったらぽいっと捨てる気か?」

「はい?」
意味が分からない。

「そ、それはふつう、女性側のセリフです」
「でも、同じこと、男がしたらこう言うだろう?この、やり逃げ男!」
「なんてこと言うんですか!」びっくりして大きな声になった。
「お前、ひどいやつだな。
俺の体を弄んであっさり捨てる気だな?」

「課長何てこと言うんですか……」

大丈夫だろうか。私。
私は、自分の上司にかなう気がしない。
やられっぱなしだ。

「とにかく、都、お前は昨日の責任を取れ。話はそれからだ」
「それからって、なんですか?」
「さあな」思わせぶりの微笑みを浮かべた。
そこまでは今までと一緒だった。
「こっちへ来いよ」
彼は、指をからめて来た。
そして、私を強引に引き寄せると、よろけるような甘いキスをした。
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