やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~


それから時間が何となく過ぎた。

「お疲れ」
早紀先輩が帰り支度を終えて、フロアを出て行こうとしている。
「お疲れ様です」私は、携帯から顔をあげて答える。

課長の仕事が忙しすぎて、ろくに話もできなかったのだ。
ほとんど進展のないまま時が過ぎてしまった。
クリスマスもお正月もこんなにそばにいたのに。
もう少し早くお互いの存在に気が付いていれば、二人でゆっくりできたのに。

そろそろ2月になる。
世の中どこに行っても、バレンタインの飾りでにぎわっている。
実は課長に渡すために、すでにチョコレートを買ってあるのだ。
問題は、それを渡すチャンスがないってことだ。
歩きながら廊下で渡すなんてことしたくないし。
そのために、時間を取ってくださいとは言いにくい。

携帯が鳴った。町田課長だった。
「よかったね。気持ちがつうじて」
そばにいた早紀先輩が、私の携帯をのぞいてニヤッと笑った。
先輩の目にも、町田課長の電話を待ちわびていたように見えたのかな。
気持ちがつうじて?早紀先輩、何に言ってるんですか?
私は、振り返って先輩の方を見る。
「違いますって」早紀先輩に反論しようと思ったら、課長の声が聞こえて来た。

「おい、都、聞いてるか?」耳に響くような低い声。課長だ。
「はい。聞いてます」
「お前、もう上がりだろう?」
「はい」
「忙しくて、連絡できなくて悪かったな」
「いいえ」
「これから、時間あるか?」
「はい」会えるのかな?
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