やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~

取りあえず、言われた通り行くしかない。
最寄りの駅で降りてみる。
駅前に商店街はあるものの、数十メートル歩くとすぐに静かな住宅街になった。
たどり着けるかな。歩いて行くうちに、だんだん心細くなる。
お店なんかどこにもなさそうだ。

もう、課長、どうするつもりですか。
何度もメッセージを送ったのに。返事が返ってこない。
電話しても連絡が取れない。帰っちゃいますよ。
課長はもう、この住所にいるかも知れない。
仕方ない。
行くしかないか。地図を頼りに目的地に向かう。
数分歩いて、割と簡単に目的地に着いた。

塀に囲まれた小さなお庭のついた一軒家だった。手入れはされてるし、きちんとした家だけど。家の周りをぐるっと回ってみた。
どう見ても普通の家だった。
お店の看板も出ていないし、通りを歩いていて立ち寄れそうな雰囲気は、どこにもないですけど。
リビングに明かりがついている。
ただいまと言って帰るような温かい空気が漂っている。
雰囲気はいい。でも、やっぱりお店には見えない。

ブザーを押して入る勇気がない。
何だか入りにくいよう。
家の前をうろうろしていたら、通りがかったおばちゃんに声をかけられた。
「あれ、あんた。このお宅に何か?」
「い、いえ……」怪しいですよね?うろついてすみません。
「呼んでみましょうか?明かりがついてるから、帰ってるはずですよ」
「い、いいえ。本当に大丈夫ですから」

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