やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~
外で話声がするのに気が付いたのか、玄関の明かりがついた。
ドアが静かに開いて、課長が中から出て来た。
「どうした?都」
「あの……」
通りがかりのおばさんが、課長に親しみを込めた視線を向けた。
「ああ、やっぱり。町田さんとこの息子さんね。
この方が家の前で様子をうかがってたから、声をかけたのよ」
おばさんが町田課長に向かって言う。
「ほら、ここでいいんでしょう?」
「はい」
私は、おばさんに前に押し出された。
「それは、わざわざ知らせてくれて、ありがとう」課長は、近所のおばさんににこやかに応じると、「中に入って」と私を家の中に招き入れた。

ここって、課長の家?
ええっ?
隣人の手前、ここで失礼しますとは言えなかった。
いえ、あの……
ご家族の方は?
いきなり家に呼ばないでくださいよ。
初めての訪問は、ワンピースを着てお土産を持っていくって決めてたのに。
でも、
家から出て来た課長は、うっとりするほど素晴らしかった。
黒の品のいいセーターに、明るめのズボンをはいている。

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