やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~

「寒くないか?」
「いいえ」Vネックのセーターをさらっと着こなして、鎖骨を思う存分さらしている。
私は、綺麗な鎖骨に釘付けになった。
同じ色で目立たないけど、課長はセーターの上にエプロンをしてる。
黒のシンプルなエプロンだけど。
すごく似合っていて素敵だった。

課長のエプロン姿につられた私は、彼の後をついてリビングにまでやって来た。
「適当にその辺に座っててくれ」親し気な眼差しに、いっきに体温が高くなる。
「はい」課長の言葉にも素直に従う。
ゆったりした広いリビングに通された。
ちょっと待って。ソファに座り考えた。
課長、ここに一人で住んでるんじゃないですよね?
家族は?他の家族の人は?
何も挨拶しないで入り込んでしまったけど。大丈夫だろうか?
「大丈夫だよ。姉はすでに結婚して家を出てるし、両親は地方に移住してここに住んでるのは俺だけだから」課長は私の様子を見ながら言う。
「そうなんですか」ほっとしたのを見られないようにする。

そうだよねえ。独身男性の家にしては、物が多すぎると思った。
サイドボードに大きなテレビ台。小さな子供の写真が飾ってある。
写真の下にあるレースの敷物を置いたのは、絶対に課長じゃないだろう。
彼の部屋なら、会社の机と同じようにシンプルにするはずだ。
彼の寝室は、シンプルなんだろうな。
無駄なものは置かないのは、家でも同じだろうと気がしてる。
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