やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~
「何か面白いものでもあったか?」
いつの間にか背後から近づいた課長に声をかけられた。じろじろ家の中を見過ぎたかな。
「いきなり声をかけられて驚いた?」
両手を肩に置かれ、ピクンと体が反応した。
「いいえ」
彼は、私の反応を確かめて楽しんでいる。
均整の取れた体は、スーツの上からだとよくわからない。
でも、セーターに体の線にあったズボンなら、課長が均整の取れた体をしているのが分かる。目の毒だ。どうしても課長に目が吸い寄せられてしまう。
「えっと……。ここは、課長のお宅でしょうか?」
「そうだが?」彼はすでに半分笑ってしまっている。
「い、家に呼ぶなら、最初からそう言ってください。こっちにも準備がありますから」
手ぶらで来てしまったじゃないですか。
「わかった。次からは前もって言うことにするよ」
「はい。次からはそうしてください」
課長は、面白そうにくすくす笑っている。
なにかおかしですか?
私は、笑われるようなことしたのかと心配になる。
課長は、そんな私の手を取って言った。

「今日は、落ち着いたところで、二人っきりになりたかったんだ」
「そんな。からかわないでください」恥ずかしさに下を向いてしまう。
「からかってるように見えるか?」
「いいえ。真剣なのは分かります」
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