やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~
「片づけ、手伝いますね」
洗い物をしようと思って、課長のエプロンを借りた。何気なくポケットに手を当てると、紙に手が触れた。無意識に引っ張り出して紙を広げてしまった。
開いてみるとプリントされたレシピに、課長の几帳面な文字が書かれている。
「塩加減が微妙。都の好みは分からないが……」
何これ?
「茹で加減は、悪くない。分量をきちんと守る?」

「都?どうした?何見てる」
「ごめんなさい。つい、いつもの癖でポケットに……」
課長がさっと手を伸ばして、私から紙きれを奪おうとした。
「ダメです。ちゃんと見せてください」
私は、とっさに後ろによけて、さっきよりもしっかりとレシピに目を通した。
課長は、取り上げるのをあきらめて、私のすることを見守っている。
「さあ、もういいだろう。さっさと返せ」
私は、課長が書いた几帳面な字を目で追った。
「どうして、隠すんですか?課長のパスタ、美味しかったですよ」
「そりゃあどうも」
私は、彼が書いた文字の意味を理解すると、顔がかっと熱くなった。

「私がクリームパスタが好きだって、どうして知ってるんですか?」
「何でだろうな」
「わかった。早紀先輩ですね?たまにランチに行って、よく頼んでるからだわ。早紀先輩はに聞いたんですね?」
「ああ」
「塩加減は、ちょうどよかったです。茹で加減も。よかったです」
「そうか」
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