やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~

「都……」耳元で声がする。
「ん?」心地よい声。
私は、この声をどこにいても聞き分けられるようになった。

「起きたのか?」
「ええ……昨日、食事を作ってもらったから。朝は私が作ろうと思って」
そっと起こさないように、背中に回った腕を解いて、彼の寝顔を眺めていた。
ずっとこうしていたいけど。そろそろ起きなければ。
ベッドで体を温め合ってると、食事ができない。
それなのに。

「まだ、このままでいいだろう?」甘えるような声。
彼は私を捕まえると、私の上に覆いかぶさって来た。
「朝寝坊さん。お腹空いてるでしょう?」
「空いてる。けど、キスの方が先だ」
「キスなら、もう、十分……」
「言ったはずだ。俺はきみに、好きな時に好きなだけキスできるって」
「食べた後だって……」
「もちろん、そうするさ。でも……食べる前にも。君が欲しい」

ああ、この人って本当にキスが上手い。
飲み込まれそう。
でも、だめ。干上がっちゃう。

「課長!!」職場と同じ呼び名をいう。ピクンと彼の体が反応した。
「おい、そのいつまで俺のこと課長って呼ぶ気だ?」
「侑介さん……」
恥ずかしくて、小声で言った。
「ダメ。それじゃ聞こえない」優しく笑いかける。
「都、俺のこと好きって言ってごらん」
「スキ……」
恥ずかしくてようやく聞こえる声で言う。

「君が好きなのは、誰?
ちゃんと答えないと、全部脱がすぞ」

「いいわ………脱がせて、ください。
私、あなたに抱かれたいです」

「えっ……」課長の顔が強張った。


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