やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~
二人で食事に行ったって、楽しくないに決まってる。でも、断ればもっと面倒なことになる。ここは、慎重に事を進めなければならない。
やんわりと、かどが立たないように断らねば。

「すみません、私は……」
「遠慮しなくていいのよ」いえ、遠慮じゃなくて。
「どこがいいかしら?」水口さんは、ポケットから携帯をさっと取り出すと、この辺りのお店を物色しだした。
水口さんは、すでにどの店にするかということに意識を向けている。さすが営業のプロだ。考える隙を与えない。
もういいわ。お昼の1時間くらい。

水口さんは女性らしい外見と違い、なかなか手強い。一旦、言い出したら聞かない。強引に相手に言うことを認めさせるのは、課長とどこか似ていた。

私は、腕をつかまれてそのままランチに出かけた。
「それで、用件は何ですか?」
早紀先輩に連絡を入れるために、携帯の画面を見ながら言う。

「どれでも、好きなものを頼んで」
彼女は、メニューを私によこすと、腕を組んで椅子に深く座り直した。
雰囲気のいい人気のお店だけど、1時間も早く来たから、店内は空いている。
早紀先輩は、すぐに返信をくれた。ご苦労さんと素っ気ない答えだった。
なんだろう。
水口さんが何を考えているのかなんて。課長以上にわかんないし。
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