やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~
「だから、遠慮しなさんなって。相手がうちの課の岡だって知ったら、上司である私が部下とのことを橋渡ししてあげるのが務めってものでしょう?」
「岡先輩?私が好きな人って、岡先輩なんですか?」
なんか、そんなことに一生懸命になって、微笑ましく思った。
「そうでしょう?作田から聞いたんだもの。間違いないわね?」
「はあ」私は、曖昧にうなずく。
間違ってはないけど。だいぶ古いですよ。その情報。

「あら、認めたわね」
「認めようが、認めないがどうでもいいじゃないですか」
「どうしてよ。好きな男に近づけた方がいいに決まってるじゃないの」
「そうですけど。自分のことは自分でしますから。そっとしておいてくださいね」
「ダメ。もう遅いの。すでに、セッティングしちゃったもの」
「セッティングって、どういうことですか?」
ダメだ。水口さんの行動力を侮ってはいけない。

「週末、営業で岡を慰める会をしようってことになったの。だって、ほら。岡って秘書課の女の子と付き合ってたんだけど。ダメになっちゃって。みんなで盛り上げようと思って」
「だったら、営業でサポートしてあげるべきでは?」
「ダメよ。優しくしてくれる子が横にいないと。あいつも癒されないでしょう?」
「何ですか。それは」面倒なことになりそうだ。町田課長ずっと出張でいないし。
「来るわよね?」
「いいえ、私は……」
「来ないと、このこと内にバラすわよ」
水口さんは、ハンバーグもパスタもきれいに食べ終えた。食後のコーヒーを一口飲んで、「美味しいわ。あなたも早く食べたら?」と笑った。
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