月之丞の蔵
「さて、母屋は築百年くらいらしいが、たしか蔵の方はもっと昔、江戸時代の頃からあったと、わしのひいばあさんが言ってたな」
「江戸時代、ということは、少なくとも百五十年、ですか」
「ああ、この家は昔庄屋で、蔵も何個もあったらしいんだが、あの一つだけは壊さず残しておくように、とだけ言われていてなぁ」
あの蔵だけ? やっぱり何かあったんだ。
「あの、その理由って知ってますか? 何か……例えば事故でもあったんでしょうか」
「それがなぁ、わしが子供の時でさえ、誰も知らなかったんだよ。雪ちゃん、もしかして、本当に蔵で何か見つけたのかい?」
「あ……いえ、そういうわけでは。つい気になって」
私は急いで茸鍋を口にほおばる。
江戸時代からある、壊してはいけない蔵。
私の夢の中で見た蔵、今よりずっと新しかった。
実際にここへ来た見た蔵よりもずっと。
私は、江戸時代の頃の夢をみているのだろうか。それも、何度も。
……なぜ?
しかも、今日そこで着物の男の幽霊を見た。そして、その人は私のことを知っていた。
……何度も見る夢と、私のことを知る幽霊、実際にある蔵。
うーん、フラグ、立った気がするなぁ。
蔵と夢、と江戸時代にあった、事件だか事故だかわからない出来事、絶対に関係あるでしょ……
私は夕飯を終え、お風呂をいただいた後、用意してくれた部屋の布団に横になった。
夢について知りたくて来たけども、実際に来たら、謎が増えてしまった。怖いけど、明日、もう一度あの蔵へ行ってみよう。幽霊が恐ろしいものだったら……今日みたいに逃げ出せばいい。大丈夫、命まではきっと……
考えているうちに、瞼が重くなり、私は目を閉じた。