月之丞の蔵
スマホには、写真アプリに入れている子供の頃の私の写真が映っていた。

「うん、そう。これは三歳くらいの時かな」

「……そうか。俺の知る雪とそっくりだが……雪がこんな衣装を着たことはない。……おぬしの言うことは真実やもしれぬな」

月之丞さんは目を伏せて言った。

「そなたは本当に、雪ではないのか? 姿も声も……雪そのものなのだが」

 夢のことが少し気にかかったけど、私は首を振った。

「残念だけど、違うよ。……ずっと蔵の中に、居たの?」

月之丞さんは目を伏せてうなずく。

「ね、蔵の外に出てみない? 昔と随分変わってるはずだよ」

 私は月之丞さんの手をひいて階段を上がり、蔵の外へ出た。

あれ……? 幽霊って、触れるんだ。

月之丞さんの手は冷たくも温かくもなく、さらさらとした手触りをしていた。

「坂の下は、きっと知ってる風景と全然違うと思う」

坂を下り、国道に出ると車がびゅんびゅんと目の前を横切る。

「なんだ……? あのでかい箱は。馬よりも速い」
「二百年の進化の産物。ああいうのに乗ることもできるんだよ」

 私は国道を渡り、その先に広がる平野に並んだ工場群に向かって歩き始める。月之丞さんは顔を空に向けると、鼻に皺をよせた。

「ここは空気が悪い。雪、大丈夫か?」
「え? ……っと、全然平気だけど」

月之丞さんはハッと息を飲んで、目をそらした。

「そうか、別人なのだったな。俺の知っている雪は、身体が弱く肺を病んでいたが、そなたは、見るからに元気そうだ」
「失礼だな。次は電車に乗るよ」

 私はローカル線の駅に着くと切符を二枚買い、顔を青くした月之丞さんを引っ張って電車に乗った。

「さっきのような速さで動くのか? 危険はないのか?」
「大丈夫大丈夫。月之丞さん、強そうなのに案外怖がりなんだね」
「無礼な」
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