10ヶ月経っても遠い君
「ちょっと遠いけど、有名なイルミネーションがある遊園地行きたいんだ。いいかな?」
「うん、いいよ」
デートを誘った時と全く同じ返事だね。
…なんて言わないけど。
その返事が来ることなんてわかってたし。
「そっか!よかった!」
頭の中にずっとある不安を取り払うみたいに、私はテンプレになりつつある返事に、同じくテンプレになりつつある返事をいつもより元気にする。
クリスマスにここに誘ったのは単にイルミネーションを見たかったからじゃない。
華やかできれいなイルミネーションには“ここに来たカップルはしあわせになる”というジンクスがあると聞いたから。
ジンクスに頼るなんて、馬鹿らしいって思うかもしれない。
でも、今の私はジンクスに頼らないと今後に安心なんてできない。
今でも、1年記念を迎えられるかもわからないのに。
ジンクスに頼ってでも、別れる前にいい思い出を作りたいの。
幸せな時間を味わいたいの。
私が告白して、付き合うことになって、何度か私が誘ったデートをして、よくわからないであろう記念日のお祝いもして。
全部私のわがままでやったことだったけど、最後も私のわがままで終わらせちゃうなんて、私はどれだけ恩知らずなんだろう。
私みたいなつまらなくて、特別可愛くもない人と付き合ってくれた秀くんはとても優しいのに。
結局一度も秀くんを楽しませることなんてできないままなんて、申し訳なくてしょうがない。
でも私は秀くんをどうやったら楽しませてあげられるのかわからなかった。
冷たくなった私の頬に、温かい涙が一粒こぼれた。