10ヶ月経っても遠い君
私が一方的に沈んだまま始まったクリスマスデートだけど、なにもずっと沈んでたわけじゃない。

中3の春休みぶりの遊園地を結構楽しんだ。

ジェットコースター、コーヒーカップ、その他名前のわからないアトラクション多数…

普段は盛り上がらないような会話も、弾んだし、何より何度か話しながら秀くんが笑顔になってくれたのがうれしい。


私が秀くんを好きになったのも、通常のクールな様子からは想像できない笑顔の存在があったからこそだった。

この笑顔があれば、なんだっていい。
最初はそう思っていたのに。


もしかしたら、先に付き合うのを諦めていってしまったのは私の方かもしれない。

いつの間にこの笑顔を忘れてしまったんだろう。

向き合うことを恐れていたのは、まぎれもない私だった。

秀くんは、何も変わっていなかったのに。

私ばっかり、思いが変わっちゃった。

偉そうに、求めてばっかり。

好きとか言われたことないって言っといて、私だって恥ずかしがって言ってなかったじゃん。



「どうかしたか?」


先を歩いていた秀くんが、急に立ち止まった私に向かって言う。


「ううん、何でもない」


少し、びっくりしちゃったの。私があまりにもひどくて。


「次どこ行く?」

「うーん、どうしよっか。秀くんはどこかある?」


結構乗っちゃったから、パッと思いつくものがない。


「じゃあ…こっち行こう」


少し悩んだそぶりをした秀くんはどこかに向けて歩き出した。

どこに行くんだろう?


「あ、そうだ、はい。」


歩き始めた秀くんは突然止まって振り返ると、私に向かって右手を差し出す。


「人増えてきたし、はぐれないように、な」

「え?」

「早くいこう」


戸惑いで身体が動かなくなった私の左手を取って、秀くんが歩き出す。

握られた左手は秀くんの体温で溶けるみたいに温まっていく。

秀くんの右手はとても温かくて、ちらりと秀くんの顔を見上げると、少し頬が赤くなっていた。


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