私達の初恋には秘密がある
結局その後、もう遅いから、なんて言って私を家まで送ってくれた。
遅いと言ってもまだ5時なのに...。
でも、ちょっと嬉しいな。なんて、おこがましいね。
いつもの帰り道なのに、りょうちゃんがいると全然違う道みたい。
そう言えば急いでたみたいだけどいいのかな。
まぁ、りょうちゃんが何も言わないからいいか。
それに···
言ったらどっか行っちゃいそうで怖かった。
また、なんて。連絡先も交換したはずなのに可笑しいね。
「ありがとね、りょうちゃん。家、すぐそこなのに送って貰っちゃって」
私は家の前で足を止めた。
「ん、別にいいよ」
りょうちゃんはどこか、照れくさそうに頭をかくいた。
「あっ、そうそう…言い忘れてたんだけど」
家に入ろうと、ドアノブに手を掛けそうになって、
止めた。
「···?どうしたの」
「俺、 越してきたんだよ。ここらへんに」
「え、そうだったの?? 」
偶然会っただけかと思ってた。
りょうちゃんは昔、私が幼稚園の時。
この街から、隣の県へ引っ越してしまったのだ。
今思えばそう、遠くはないんだけど、小さい私達にはそんな事すら分からなかった。
結局、連絡先も交換せず、住所も知らず、離れ離れになってしまった。
丁度、小学校に上がるタイミングで・・・。
また、りょうちゃんとこの場所で会えるんだ。
胸の高鳴りをおぼえて、必死に隠そうとした。
「それでなんだけどさ、秘柳高校って知ってる?」
「えっ.....?」
思わず、間抜けな声が出た。
えっ、まって・・・
それって...?
「俺、そこに転校するんだ。まぁ、親の転勤で変な時期になっちゃったけど」
そして、知ってる?と私に追い討ちをかけた。
知ってるも何も......。
「...知ってるも何も、そこうちの学校だよ」
私の表情とは裏腹に、彼は満面の笑みを浮かべた。
それに引替え私はたぶん、引きつった笑顔だ。
目の前では、同じクラスだといいな、なんて子供みたいにはしゃいでいる彼の姿。
そうだね、なんて。それより、この表情が上手くマフラーで隠せていたか不安だ。
「じゃあ、また明日な」
「うん、またね」
手を振ってりょうちゃんを見送った。
せっかくの再開なのに、最後の会話は覚えてない。
どうしよう・・・
りょうちゃん、うちの学校に来るんだ。
あれだけ嬉しかったはずなのに、もう逃げ出したくなっている。臆病者···誰かの声がそう、頭の中で聞こえた気がした。
でも、こんなのは聞いてないよ、りょうちゃん。
玄関でズルズルとしゃがみ込んだ。
そんな私を見て、両親がどうしたの?なんて、心配されてしまった。
私は、大丈夫。とだけ答えて自分の部屋に戻った。
ケータイを開くと、もうさっそくりょうちゃんからのメッセージが来ていた。
メッセージを開くと、
「別れる時、様子変だったけど大丈夫?やっぱり熱あった?」
なんて送られてた。
気づかれてたんだ。
心配してくれるなんて、優しいね。
「うん、ありがとう。たぶん外が寒かったからかな...でも、大丈夫だよ」
「よかった。さっきも、顔赤かったし風邪ひくなよ」
「うん、ありがとう」
と返信し、同時に一気に体の力が抜けた気がして
ベットにそのまま倒れ込んだ。
「はぁ...」
りょうちゃんにだけは···知られたくなかった。
知らないで欲しかったな。
いつ、転校してくるんだろ···
明日かな。
そうすると、またケータイのメッセージ着信の音が聞こえた。
かろうじて、一緒に倒れ込んだケータイに手を伸ばすと
やはり
りょうちゃんからの返信だった。