旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです
いや、待って。なんの話!?
上から目線で言う、その言葉の意味がわからない。
もう全然好きじゃないし、やり直さないし、そもそも奥さんも子供もいるでしょ!
こんな男の言葉を何年も引きずっていたのかと思うと急にバカらしくなってしまった。
「照れるなよ。な、やり直そうぜ」
そんな私の冷めた気持ちを察することなく、彼は私の腕を掴む。
「ちょっと、やだ!離してっ……」
するとその時、突然背後からグイっと肩を抱き寄せられる。
突然のことに驚き振り向くと、それは津ヶ谷さんの腕で、彼は元カレをまっすぐ見つめていた。
「悪いけど、触らないでもらえますか」
「はぁ?お前、彩和のなんなんだよ!」
取引先の相手ではあるものの、担当になったことがないので知らないのだろう。
噛みつくように言う彼に、津ヶ谷さんは冷静な瞳で答える。
「夫だ、って言ったら?」
「え!?」
「冗談ですよ」
そして彼をからかうように言って笑うと、私の肩を抱き寄せたままその場をあとにした。
連れられるがまま建物から離れたところで、私たちは足を止めた。
「大丈夫なんですか、あんなこと言って……言いふらされでもしたら」
「大丈夫だろ。適当にとぼけて切り抜ける」
確かに……津ヶ谷さんが『なんのことですか?』と微笑めば大体の人は納得してしまいそうな気がする。
「……でもありがとうございました。助かりました」
「別に、たまたま通りがかっただけだ」
そっけなく言うけれど、きっとたまたまではないのだと思う。
そんな不器用な彼の優しさに、希望のような問いかけがこぼれた。