旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです
「そ。王子とか言われてるけどさ、本当は津ヶ谷って……」
やめて、言わないで。
王子の姿を守り抜いてきた彼の努力を、理解してもらえなくても責めることもしなかった彼の思いを、無碍にしないで。
「い、乾さん!!」
そんな思いからつい廊下に飛び出し、彼女の声を遮る。
突然の私の登場にふたりは驚いた。けれど乾さんはなにかを察したように言う。
「ちょっと桐島さんとふたりで話したいから先戻ってて」
「え?うん、わかった……」
乾さんの言葉に女の子は深く聞くことはせずに、その場をあとにした。
周りにひと気のない細い廊下に私と乾さんふたりだけが残されると、彼女は私を見つめた。
「なんで今口挟んだの?あなた関係なくない?」
「関係、ないですけど……津ヶ谷さんの努力を、無駄にしないでほしくて」
乾さんは納得したように頷く。
「あー、桐島さん、津ヶ谷と付き合ってるんだ?」
「べつに、そうじゃないですけど……」
「ふーん?まぁ、どっちでもいいけど。でも気をつけなよ?津ヶ谷、二重人格じゃん。絶対ヤバいって」
乾さんは鼻で笑って言う。
『二重人格』、『ヤバい』、津ヶ谷さんをバカにするようなその言い方に、ムッと怒りが込み上げる。
「気をつけることなんて、なにもないです」
「え?」
「たしかに、口は悪いし偉そうですけど、彼は優しい人です。あなたは、恋人だったのに津ヶ谷さんのなにを見ていたんですか?」