旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです
傷ついた心を分かろうと触れてくれる。涙を拭ってくれる。
そんな、本当の彼の優しさや誠実さを見ることもせずに、否定ばかりをする。
その言葉に津ヶ谷さんが傷つき、苦しんだなら、私は彼女を許せない。
そんな腹立たしさを真っ直ぐぶつける私に、乾さんも腹を立て眉をつり上げる。
「は!?あなた何様なわけ!?偉そうにしないでよ!!」
そして、カッとなって手を振り上げると、私の顔めがけて思い切り振り下ろした。
叩かれる。そう覚悟して、ぎゅっと目をつぶる。
それと同時にパンッと肌が叩かれる音が響いた。けれど、痛みはいつまでも感じることはない。
あれ……。
驚き目を開けると、目の前にはグレーのスーツを着た大きな背中。
「え……?」
それは私を庇うようにして立つ津ヶ谷さんのもので、みるみるうちに赤くなる彼の左頬に、彼が私を庇って乾さんに叩かれたのだろうことはすぐにわかった。
「つ、津ヶ谷さん!?」
「行くぞ、彩和」
突然の彼の登場に驚く私と乾さんをよそに、津ヶ谷さんは私の腕を引き歩き出した。
どうして、ここに?
しかも庇ってくれて、頬も叩かれて、どうして。
混乱する頭で連れられるがまま歩いていく。
そして会場の裏口から外へ出ると、彼はようやく足を止めた。
「津ヶ谷さん……あっ、ちょっと待っててください」
すぐ近くに蛇口があるのを見つけると、私は小走りで駆け寄り、ハンカチを水で濡らす。
そしてすぐ彼の元へ戻ると、先ほど叩かれ赤くなった左頬にそっとあてた。