旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです



「すみません、ありがとうございます」

「しっかり前見ろ。危ないな」



そう言いながら、彼はすぐ肩から手を離す。

避けさせるために触れただけ。わかっていてもそのそっけなさに少しがっかりしてしまう。

ところが彼は、そのまま自然に私の手を取り歩き出した。



「津ヶ谷、さん?」

「混んでるから。はぐれても面倒だしな」



こちらを見ることなく言って、手を引く。



相変わらずの、そっけなく偉そうな言い方。

だけど、気づいてしまった。津ヶ谷さんが顔を背けて言うときは、照れているとき。

照れくさい顔を見られたくないのだろう。そんな不器用な態度が、子供のようで少しかわいい。

手を包む長い指に、愛しさが止まらない。



「あれ、津ヶ谷?」



そのときだった。聞き覚えのある男性の声が津ヶ谷さんの名前を呼んだ。

その声に視線を向けると、そこには会社の先輩社員がいた。昨日津ヶ谷さんと休憩スペースで話していた先輩のひとりだ。



げっ、どうしてここに!?

慌てて顔を背ける私を、津ヶ谷さんも急いで背中に隠す。



「どうしたんだ?こんなところで」

「ちょ、ちょっと買い物に。先輩こそどうしたんですか?」

「彼女と映画観にきたんだよ。観たかったのがここでしかやってなくてさ」



先輩と話しながら、津ヶ谷さんは『隠れてろ』というように手を背後で動かす。

それに従い、私は人混みに紛れながら近くの物陰に身を潜めた。


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