旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです
焦った……まさかここで先輩と会うなんて。
幸いこの人混みのおかげか先輩には気づかれていないみたいだ。まぁ、津ヶ谷さんが私と歩いているとは思わないよね。
そう思いながらこそっと様子をうかがうと、先輩の横にいるギャルっぽい少し派手目の彼女は津ヶ谷さんを見て声を上げる。
「えっ、ちょっとこのイケメン誰!?知り合い!?」
「会社の後輩だよ。ほら、さっき話したじゃん」
なにか津ヶ谷さんのことを話していたんだ。イケメンの後輩がいるとかかな。
そう考えていると、彼女は思い出したように頷いた。
「あぁ!『好きな女の子のタイプが“卵焼きが甘い人”』のイケメン!超かわいい〜って話してたんだよねー!」
彼女が大きな声で言うと、津ヶ谷さんは「んなっ」と聞いたことのないような声をあげて固まった。
それは、昨日のあの会話で私が聞けなかった『あと……』の続き。
「おっと、もう映画の時間近いんだった。じゃあ、また月曜な」
先輩はそう言うと、彼女とともにその場をあとにした。
ふたりの姿が完全に見えなくなったのを確認して、私はそーっと津ヶ谷さんの元へ戻る。
好みのタイプは、卵焼きが甘い人。
そんな津ヶ谷さんらしくない言葉は、冗談のつもりで言ったのかもしれない、けれど。
のぞきこんだ先の彼は、耳まで真っ赤に染めるから。少しは本気で思ってくれていたのかな、なんて思ってしまう。
「もしかして、私のお弁当結構気に入ってくれてたりします?」
「……うるせぇ」
そう言って、また私の手を引いて歩き出す津ヶ谷さんの手は熱い。
その熱が嬉しくて笑ってしまった。