旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです
「聞いた?津ヶ谷さん、この前女と歩いてたらしいよ」
すると、女性社員たちの会話から聞こえてきたのは津ヶ谷さんに関する噂だった。
「なんか土曜に先輩が横浜で会ったらしくて。『あんなところにひとりでいるわけない、絶対彼女とデートしてたはずだ』ってさ」
「えー!やだ、ショック!」
それは、この前の土曜日のことだろう。
まずい、噂が!
あの時は先輩はなにも突っ込んでこなかったけど、やっぱりあやしんでいたんだ……!
もし他の誰かにも見られていたら、しかもそれが私だったとバレたら。考えただけで冷や汗が噴き出す。
一方では部屋の隅に固まった女子たちが、据わった目つきでボソボソと話している。
「津ヶ谷さんの彼女とかありえない……社内の人だったらシメる……」
かすかに聞こえてきたのは恨みのこもった言葉だ。
こ、怖すぎる……!
まずい。バレたらいろんな意味でまずい。
とりあえず誰にもそのことについて問われないように、始業時刻ギリギリまで資料室に逃げていよう。
そう、引きつった笑みで部屋を出た。
すると、廊下に出た瞬間に目の前に現れたのは乾さんだった。
「わっ」
ぶつかりそうになったところを寸前で留まり、お互い驚いた声をあげる。
「す、すみません」
「こちらこそ。悪かったわね」
今日はブルーのブラウスに黒のタイトスカートですっきりと決めた乾さんは、アイラインをしっかりと引いたキツめの目で私の顔をまじまじと見る。