旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです
「ねぇ、ちょっと来て」
「へ?あっ」
そして私の腕を半ば強引に引っ張り歩き出す。
連れられるがまま、私は乾さんと近くの会議室へ入った。
朝一番の会議室は誰も使っておらず、ブラインドも下げられ薄暗い。
オフィスのにぎやかさから一転、しんと静まり返ったその部屋で乾さんは私を見据えた。
「あの、なにかご用ですか?」
乾さんが私をひとり連れ出す理由が見つからず、問いかける。
「噂になってる津ヶ谷の彼女って、あなた?」
「へ!?」
すると乾さんから投げかけられた問いは、思わぬものだった。
彼女ではない。けれど、先日津ヶ谷さんと歩いていたのは私だ。
仮の夫婦という秘密もあり、心臓が嫌な音を立てた。
けれどここで知られてはいけない、その一心で慌てて否定する。
「ちっ違いますよ!全然!私と津ヶ谷さんはただの同じ部署ってだけでそれ以外は全く関係なくて!」
「へぇ」
頷くけれど、怪しむその表情から彼女が信じていないのは明らかだ。
ところが乾さんは、ふっと笑ってみせる。
「ま、ならいいけど。それならその方がこっちも好都合だわ」
「え?それってどういう意味ですか?」
「私、津ヶ谷ともう一度やり直したいと思ってるの」
発せられたひと言は、さらに思わぬものだった。
津ヶ谷さんと、やり直したい?
「悔しいけど、この前のあなたの言葉で目が覚めたわ。どんな彼でも彼には代わりないもの。ちゃんと、向き合いたいと思った」
乾さんのその目は、冗談などではなく本気のものだ。