旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです



乾さんが、津ヶ谷さんと向き合う。

それは、また恋人同士に戻るということ。



『そんなの、いやだ』

思わず出かけた言葉をぐっと飲み込む。



「……そう、ですか」



代わりに、そうつぶやくだけで精いっぱいだった。



やめて。津ヶ谷さんと結婚してるの。彼の妻は私なの。

なんて、いくら胸の中で叫んでも声には出せない。



だって、所詮私と彼の関係は偽りでしかない。

偽りの妻という立場の私には、なにも言う資格なんてない。

そんな自分が虚しく、悲しくて、泣き出してしまいそうになる。



「すみません、もう仕事の時間なので」



それを堪え、精いっぱいの愛想笑いで会議室をあとにした。



もしも、津ヶ谷さんが乾さんの気持ちに頷いたらどうなるんだろう。

そしたらもう、私の役は不要だよね。

本物の恋人がいるなら、嘘をつく必要なんてない。



津ヶ谷さんの奥さんは、乾さんになる。

彼の隣には彼女が並ぶ。

彼が本当の自分を見せるのも、笑うのも、気を緩ませるのも、彼女だけ。



……やだ。

そんなの、いやだ。



想像するたび胸がチクチクと痛む。

いっそ、想いを吐き出してしまえば。もしかしたら、受け入れてもらえるかもしれない。

本当の夫婦に、なれるかもしれない。



都合のいい、淡い期待を浮かべてしまう。





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