旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです
本物の夫婦に。なんて、こんなの彼を『好き』と言っているようなものだ。
本物になりたい。
条件で選ばれるのではなく、その心に選ばれたい。
脅されてともにいるのではなく、気持ちがあるからともにいたい。
そんな真剣な思いで問いかけると、少しの無言のあと津ヶ谷さんは口を開いた。
「そうだな。……だとしたら、この関係から解放してやる」
関係からの解放。
そのひと言に、絶望に突き落とされるような気がした。
私の気持ちが本物だとしたら、この関係から解放する?
それはつまり、応えられないから?
仮の夫婦の時間は終わる。
こんなにも、あっさりとした言葉で。
「そう、ですか」
愕然とする気持ちを抑え、声が震えないように言う。
「ごめんなさい、変なこと聞いたりして。あ、今ごはんよそりますね」
そして立ち上がると、逃げるように台所へと向かう。
「おい、彩和?お前……」
背後の居間からかけられた津ヶ谷さんの声を無視して、私はごはんをよそり彼の元へ置いた。
「私、お風呂入って部屋行きますね。今日はアニメの日なので邪魔しないでくださいね」
そう笑ってごはんの用意を終えると、私は足早に居間を出て脱衣所へ入る。
ドアを閉めると足からは力が抜けて、その場にぺたんと座り込んだ。
泣くな、泣くな。
だって、泣く理由なんてない。
最初からわかっていたことだ。
私と彼の関係は、あくまで嘘。
私が選ばれたのは彼にとって条件がよかったから。
それだけで、それ以上はない。
彼の気持ちひとつで簡単に簡単に切れる関係だ。
私ひとりが、勝手に期待していただけ。
泣きたい気持ちを必死に抑え涙を強くこらえる。
鼻の奥のツンとした痛みが、胸の痛みを表すようで余計泣きたくなった。