旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです
『そんなに謝らないでください。おふたりにも色々とご事情があったんでしょう。寂しいですけど、彩和さんと暮らせて楽しかったです』
そんな優しい言葉をかけてくれた小西さんに、余計胸が痛くなった。
けれど、津ヶ谷さんとの関係を続けることはできないから。深く頭を下げて、最低限の荷物をまとめて家を出た。
靴も、小西さんに『捨ててほしい』と託してきてしまった。
自分で捨てる勇気も、なかったから。
津ヶ谷さんとは、あれ以来顔も合わせていない。
というのもお互い外回りですれ違うことが多く、さらには津ヶ谷さんは急な出張も入ってしまい先週から昨日まで名古屋にいたからだ。
思えば津ヶ谷さんと連絡先は交換していなかったから、電話の一本もない。
まぁ、交換していたところで電話なんてなかっただろう。
だって、もうする意味がないから。
そう思うとまた苦しくて、私は深く呼吸をすると、頬をパンッと両手で叩く。
「……よし」
今日も、仮面を被ろう。
完璧な自分、津ヶ谷さんと縁なんてない自分。
好きの気持ちなんてない、自分。
誰にもバレてしまわないように。
「桐島さん、おはよう」
「おはようございます」
出社すると、先日の噂もすでに沈静化しており、いつも通りのオフィスだ。
今日は朝から池袋の取引先に行って、その足で八王子だ。夜は確か部長主導の飲み会の約束があったっけ。
でも気が乗らない。なにか理由つけて断っちゃおうかなぁ……。
そんなことを考えながらデスクに着き、パソコンを開いていると、背後からは女性社員たちのひそひそ話が聞こえてきた。