旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです
つ、津ヶ谷さんのお母様!?なぜ!?
「ど、どうしてこちらに!?」
驚きを隠せずつい思い切り反応してしまう。
「どうしてって、私が誰だか忘れたのかしら」
「え?あっ」
言われてから思い出すのは、そういえば津ヶ谷さんのお母さんは、親会社の社長だということ。
子会社であるここに現れてもおかしくはない。
私の納得を察したように、津ヶ谷さんのお母さんはふっと笑う。
「こちらに用があってね。あとついでに、あなたにも話があって」
「私、ですか?」
話していると、近くを通り過ぎていく人々が私たちを見ていく。
その視線を感じて津ヶ谷さんのお母さんは、自然にエントランスの端によけた。
「離婚するんですって?小西さんから聞いたわよ。そもそも付き合ってなかった、偽装結婚だったってことも」
うっ。小西さん、そこまで話してしまったんだ……。
「私を騙すなんていい度胸ね」
「すみません……!」
じろ、とこちらを見るその鋭い目に、気まずくて目を背けた。
あぁ。知られてしまった。
親会社の社長相手にあんな嘘をついて、どんな処分をされるかわからない。
減給、左遷、クビ……嫌な想像を思い浮かべて背中に冷や汗をかいた。
けれど、津ヶ谷さんのお母さんはそんな私を見て困ったように笑った。
「冗談よ。ごめんなさいね、愁の事情に付き合わされて」
「え?」
「……わかってるの。私の育て方のせいで、あの子があんなふうに感情を隠す子になったって」
そう呟く瞳は、先日のような自信に満ちたものとは違う。悲しげな笑みだ。