旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです
やけに強引に飲み会に誘ってきたかと思えば、つまりは私と常務の息子をくっつけて、常務に自分の名を売ろうということだ。
満更でもなさそうに照れる常務の息子を横目で見ながら、私は愛想笑いを作る。
あぁ、どうしよう。
こういうとき大体は上手いこと言って流してしまうけれど、部長のこの強引さには有無を言わさずくっつけられてしまいそうだ。
さてどうしたものかと考えていると、広間のドアが開かれる。そこから顔を見せたのは鞄と紙袋を手にした津ヶ谷さんだ。
「すみません、遅くなりました」
「おっ、津ヶ谷!お疲れ。こっち空いてるぞ」
仕事が押してしまったのか、遅れて来た津ヶ谷さんへ目を向けるとふと目が合う。
つい逸らしてしまうと、彼も特に気に止める様子もなく部長に呼ばれるまま、私の斜め前の席に腰を下ろした。
不自然だとわかっていても、目が合わせられない。
手元のお茶を飲んで、動揺をごまかす。
「桐島さん、お酒は飲まれないんですか?」
「えぇ、あまり得意ではなくて」
「じゃあ今度ごはんの美味しいところでお食事でもいかがですか?」
少し恥ずかしそうに誘う彼に、「いいですね」と笑って答えた。
考えてみれば、彼の好意をわざわざ無視しなくてもいいんだよね。
もしかしたら、彼も本当の私を受け入れてくれるかもしれない。
そしたら私は、次の恋に進むことができる。
この苦しさを忘れられるかもしれない。
そんな期待を込めて、彼との話に花を咲かせる。